前回「ロンドン観光とブレグジットの影響」の続き。大英帝国は言わずもがな、世界史上最も広く陸地を支配した帝国である。
(グリニッジ天文台。経度0、大英帝国は世界の中心だった)
大英帝国が立ち上がり始めたのは16世紀の終わり頃から。1588年にスペイン無敵艦隊との戦いに勝利し、海上の覇権はスペインからイギリスに移り始めた。同時期にはアメリカ大陸にも進出。18世紀後半には産業革命により生産効率が向上。そして19世紀にはパクスブリタニカと言われる繁栄を迎えることになる。
ここで注目したいのは、当時のイギリスが自由貿易帝国主義と言われる方針をとっていたこと。イギリス自体が力を持っていたので、他国に自由貿易を強制しようとしていた。「自由」貿易というと聞こえはいいが、要するに他国の市場を開いてイギリスのものまたは仲介したものを売ろうということである。そのかわりイギリスも、オープンですよという態度だ。
一番面白いエピソードは1853-56年のクリミア戦争におけるロシアへの寛容さである。ロシアはクリミア戦争において敵国であった。しかしロシアは金がなかったので戦費を調達する必要があり、その資金集めをあろうことかロンドンで行った。イギリスは止めようと思えば止められたはずである。しかし、当時のイギリスは自由な経済活動こそが自分たちの繁栄の礎と考えていたので起債を止めなかった。この戦争では明確な勝者は居なかったものの、イギリスの経済力と軍事力の強さが浮き彫りになった。要するに、余裕こいていたのである。
だがその後、ドイツ及びアメリカ合衆国が台頭してくる。そして1929年の世界恐慌後はブロック経済という植民地を活用した高関税政策に走るのである。19世紀の自由貿易、自由な経済活動とは何だったのか。
・・・結局はポジショントークだったということである。僕らはなんとなく、自由な経済、自由貿易というのが絶対的に正しく、閉鎖された経済というのはだめだと思い込んでいる。閉じていた共産主義(特にUSSR(ソビエト連邦))が失敗したということもある。
日本はそこそこ経済力があるので色々な国に対して自由貿易を要求した方がお得なケースが多いだろう。
一方で最近の中国を見ていると閉じた利点を感じることもある。中国では情報検閲の観点からインターネットでの情報アクセスが制限されている。これは中国人にとっては不便なことも多いだろうし、外国人が中国に行くと悩まされる点である。しかし閉じていなければ、Baiduやアリババやテンセントはうまくいっていなかったかも知れない。
またシンガポールの友達に言わせると正しい独裁が最高だよ!とのことである。
大英帝国に話を戻すと、、、調子の良かった時期は自由貿易で他国に開け!と言っていた。そして調子が悪くなると閉じた囲い込みに走る。そして最後はEUすら脱退してしまう。20世紀前半からの大英帝国衰退における終わりの終わりと僕は位置付けている。
これは現在のトランプ政権がやろうとしていることとも似ている。USは21世紀半ばには完全に中国に経済規模で抜かれる可能性は高いだろう。その後もUSが自由な経済、自由貿易を標榜し続けられるだろうか。僕はそうは思わない。自国に都合のいいことを言い出すのではないか。繰り返しになるが、自由な経済、自由貿易というのはポジショントークの側面が強い。
その中で日本としては自由な経済、自由貿易というのがいいのだと盲目的に思わずに、うまくやっていくしかない。
投資家としては、閉じた部分と開いている部分を現在のところ使い分けている中国がどうなるか慎重に見極めて、付き合って行く必要があると思っている。