投資家の不都合な真実。なぜ投資家は本業に集中すべしと言うのか

本業に集中すべしと投資家が言う理由

スタートアップの創業者でも、大企業の経営者でも、投資家から本業に集中すべしと言われることは多い。その際の理由は以下の二つが考えられる。

① 本業に集中しないと他社を圧倒出来ない
② 投資家は他の企業にも分散投資しているので、その会社の事業が多角化することは困る

しかし、投資家が本業に集中すべしと創業者・経営者に言う時は①だけを語る。②について語ることはほとんどない。

本業に集中することのメリット

本業に集中することの利点は勿論たくさんある。大きくは以下の三点。①社内のリソースを集中出来る。②経営者の意思決定がシンプルになる。③投資家に何をやっているのかアピールしやすい。

①社内のリソースを集中出来る

特にスタートアップの場合はそもそもリソース(人材、資金等)が少ないので、リソースを集中出来ていないと競合スタートアップまたは既存の大企業に勝つことは難しい。
また売上200億円位の老舗上場企業になるとスタートアップの様に将来もガンガン成長するという絵を見せることは難しく、優秀な人を大量に採用することは困難。そうすると既存の人達で今ある得意分野を何とか伸ばして、または現状維持していかないといけない。

②経営者の意思決定がシンプルになる

スタートアップだと経営者が決めないといけないことが多い。組織が大きくなって来ると権限委譲出来るのだが、権限委譲する人がいないのであれば、創業者・経営者が決めるしかない。その時に、そもそも事業が複数あると意思決定することが複数倍になり、本業が中途半端になりやすい。
これは大企業でも似たことが起こりうる。例えば売上2,000億円の会社において、売上50億円の古くからの事業があるとする。かつその事業だけ赤字だとすると、役員会の議論がその事業に集中することが頻繁に起こりうる(僕の投資先でもそうだった)。あまり有効な時間の使い方ではない。

③投資家に何をやっているのかアピールしやすい

まずスタートアップの場合。投資家に対し、一言でうちはこういう会社ですとアピールしやすい。投資家も幾つか投資テーマ(最近だとAI、フィンテック、バイオ等。何年か前だとアドテク、ゲーム、クリーンテック等)を決めている時があり、それに沿うものだと検討は速くなる。僕がUSの半導体ベンチャーに投資した時に一緒だったKPCBですらそうであった。更に言うと、これは銀行系等の個人の判断出来る部分が小さいVCは顕著だと思う。社内でどう説明出来るか、が鍵である。
上場している場合は多角化しているとコングロマリットディスカウント(簡単に言うと、何をやっているか不明だぞディスカウント)という言葉が適用され、バリュエーションが低く見積もられることがある。セクターでアロケーションを決めている投資家には混乱を与える、または投資してもらえない。そして、個人投資家にもアピールしにくい。

多角化することのメリット

それでは反対に、事業を多角化することのメリットは何なのか。最も大きいのが事業リスクの分散である。
例えばミクシィはそもそも転職事業からスタートしており、その後平行してSNSを立ち上げ、いつの間にかゲームで稼ぐ会社、になっている。転職事業だけだと今の時価総額にはなっていないと思われる。
次にドリコムは当初はプロフィールやブログの会社であったが、こちらもゲームメインになっている。ブログだけだったら会社が危なかったと思われる。
Facebookも初期はワイヤーホグとFacebook(まだ頭にTheがついていた)を並行していた(投資家は文句言っていたみたいだが)。

大企業でも同様で、IBMはハードウェアの会社であった。僕が大好きな日清紡は繊維の会社だったが、製紙・電子部品・ブレーキと拡大し、本年2月に製紙ビジネスを大王製紙に譲渡発表。僕は日清紡のコットンフィールというトイレットペーパーがめっちゃ柔らかくておしりに優しくて大ファン、、、なので大王製紙にも守ってほしい。それは置いといて、日清紡も繊維のみの会社だったら厳しい状況になっていたと思われる。

投資家の頭の中。投資先が多角化すると困る

多角化してうまくいっているまたは尻窄みを回避した会社は幾つもあるのに、投資家はなぜ、本業に集中すべしと言うのか。
その答えは、本稿の始めに書いた、
②投資家は他の企業にも分散投資しているので、その会社の事業が多角化することは困る
という点が大きい。そう、投資家は他の会社にも投資しているのである。その理由は以前の記事「完璧な人間は存在しない」で書いた通り。繰り返しになるが投資とは、

勝つときもあれば負けるときもある。だから分散してリスクを低減して、トータルでの勝利を目指す。

ものだからである。ので、一点集中投資ということはない。そもそも投資先を分散している(投資家のポートフォリオの中で多角化している)ので、ポートフォリオの中の一社が多角化することに意味が無い。更に言うと、投資先としての特徴が薄れ、他社に買収される可能性が減るので困るのである。新たな買い手としては、余計なビジネスをやっていると扱いに困る。

LPの思惑

VCやプライベートエクイティやヘッジファンドに資金を提供している後ろ側の投資家(いわゆるLP。年金や銀行やファンドオブファンズ等)ですら、投資家の動きについて色々言ってくる。
例えばVCに資金を提供している年金の立場で言うと、彼らは複数のVCに投資しており、投資先のVCが同じ案件にばかり投資すると分散が効かず困るのである。よって、このVCはこういう投資(セクターだったり、成長ステージだったり)をしますよ、というのは事前に契約で規定する。
またヘッジファンドがVC的な動きをするのをLP契約で制限したり、プライベートエクイティがヘッジファンド的な動きをするのを制限している。LPは様々なアセットクラスにそもそも分散投資しているからである。

結局、創業者・経営者が管理仕切れるかの問題

本業に集中すべきVS多角化の議論は常に出るもので、答えは無い。
僕が色々な会社を見て来た限りでは、本業に集中して一点突破した方がいいケースの方が多いと思われる。多くの会社において、リソースの問題は如何んともし難い。
創業者・経営者が多角化したいのであれば、やり切って、これが正解でしたと見せるしかない。その究極形がバフェット率いるバークシャー・ハサウェイであり、僕の大好きなダナハーとなる。

本稿で言いたいのは、投資家は他の会社にも投資、つまり多角化しており、その前提で発言しているということである。

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