買収により、経営陣を獲得するという試み(いわゆるAcqui-hiring)は大企業においても、スタートアップにおいても行われている。これはうまく行くのだろうか??
僕の結論から言うと、経営陣の獲得それ自体が目的になることは、あまりいい取組ではないと考えている。理由は①バリュエーションの嵩上げ要因になり易い、②人は辞めてしまう、③被買収企業の経営陣は高く評価されがち、である。
まず①バリュエーションの嵩上げ要因になり易いという点。プライベートエクイティでも大企業でも買収をやったことがある人ならば分かると思うが、案件を検討していると、投資したくなる。
特にオークションは独特の雰囲気がある。多くの場合見えない競合との戦いであり、どうしても勝ちたくなる。その時、定量的な部分で是正出来ないバリュエーションを、対象会社のマネジメントがいいからという理由で嵩上げするケースが多い。なぜならマネジメントがどうかという点は投資する際に重要なポイントであるにも関わらず、定量化出来ないからである。
次に②人は辞めてしまうという点。まず、スタートアップの買収により創業者を獲得するという場合。少し考えれば分かるが、創業者はなぜ起業家になったのか。人からあれこれ言われるのが嫌だ、自分で全部決めたいという点が大きいはずである。ので、大企業または他のベンチャー企業に買われたスタートアップの創業者が辞める可能性は高い。
そしてファンドの投資先で、ファンドが採用した経営者の場合。こちらもやはり社長になれるのだから大企業を辞めて来た、というケースが多い。ので、辞める可能性が高いと思われる。
最後に③被買収企業の経営陣は高く評価されがち、という点である。これは特に新規のビジネスまたは、新しい国での事業を買収する場合に起き易い。つまり、プライベートエクイティにおいては常につきまとう問題である!
世界最大のプライベートエクイティたるブラックストーンが過去に自分達の業績をレビューした際、ブラックストーンの投資担当者ですら、投資先経営陣を高く見積もり過ぎる傾向があったらしい。これは僕がいたファンドでも同じことが起きていたと思う。
あと、面談させて頂いた際のこの点大丈夫かな??という懸念(部下との折り合いがとても悪そう等)は大体現実化する。これは非常に面白いポイントで、投資案件でも同様である。詳しくは次回。
さて繰り返しになるが、買収により経営陣を獲得するという試みは、それ自体が目的になると失敗する可能性が高い。僕らは冷静に事業を見極め、マネジメントが辞めるかもしれない可能性を織り込み、必要があればリテンション(経営陣継続のために行う追加報酬等の仕掛け)をかけ、投資判断をしていかないといけない。