ハゲタカファンドとは何なのか。アルゼンチンとファンドの15年戦争

ハゲタカファンドとは何なのか

多くの人にはバイアウトファンド(買収ファンドやプライベートエクイティファンドとも言う)とハゲタカファンドがごっちゃになって理解されている。
簡単に言うと、バイアウトファンドは株式投資家で、ハゲタカファンドは債権投資家だ。いずれも、安く買って高く売るという点は共通している。

株式投資もやれば債権投資もやるファンドも存在するが、この記事では明確に分けて考えることにする。

ごっちゃになってしまった理由は、小説及びドラマのハゲタカが原因であろう。ハゲタカの主人公、鷲津が率いるファンドは両方やっていた。

※これまた余談だが、ベンチャー界隈の一部でM&Aにより会社を売却するということを「バイアウトする」と言っていることがあるが、バイアウトは買収すると同義。よって表現としてはおかしい。バイアウトされる、なら良いのだが。

ハゲタカファンドのビジネス

ハゲタカファンドというとあまりイメージが良くない。なぜか?

困っている債務者から、いかに資金を回収するかという投資行動だからだ。

例えばある会社(A社)が銀行から100億円の借入を抱えていたとする。銀行はA社を回収不能とみなし、いくらでもいいから債権(A社に対する貸付)を他社に引き取ってほしい状況。

ここでハゲタカファンドの出番。元の十分の一の価格たる、10億円で銀行から債権をまるっと買うのだ。そして、A社に対しあらゆる形で債権の回収を図る。具体的なやり方としては担保権の実行、訴訟等である。これにより50億円の回収を実現し、債権購入価格10億円を差し引いた40億円が利益となる。

(※ちなみに、ハゲタカファンドでない債権投資家として再生ファンドがある。債権を安く買い取って、会社の再成長により債権回収または、債務の株式化(デットエクイティスワップ)によって会社の再生を行うもの。本稿では再生ファンドについてはカバーしない。)

A社が苦境に陥ったのはA社自身が悪いケースが多いのだが、、、ハゲタカファンドは困った会社が債務を減らそうとしているところで争うため、世論の感情としては「困っている人を更にいじめるのか!!」となりやすい。

繰り返しになるが、ハゲタカファンドは一般の人からの受けが悪いファンドである。

しかし、レピュテーション(評判)リスクを取る、ということはリターンもそこに存在するということだ。僕はハゲタカファンドはレピュテーションリスクを取ってリターンを得ている勇気あるファンドだと考える。ただ、自分で積極的にやりたいとは思わないかな。

ハゲタカファンドと国家の争い。アルゼンチンのケース

会社ではなく、国家と争っているハゲタカファンドもある。重債務国がデフォルト(債務不履行)した際に、国債を安く銀行等の金融機関から買い集めた上で債務減免に応じず、「国債を全額償還し、加えて金利の延滞分を払え!」と申し立てるファンドだ。

ここでは、アルゼンチンのケースを紹介したい。2001年にアルゼンチンが債務不履行を決めた後、ハゲタカファンドの出番となった。

まず、なぜアルゼンチンはデフォルトしたのか。

国として過剰に借入を行っていて、支出が多過ぎたからである。勿論世界経済の影響もあるのだが、アルゼンチン自身の経済運営が稚拙だった部分が大きい。アルゼンチンはデフォルト慣れしており、債務減免してください~とすぐねっころがってしまう体質でもある。こらこら。

次に、なぜアルゼンチンに金を貸していた金融機関はハゲタカファンドに国債を売ったのか。

銀行に代表される金融機関は自身が持っている資産が健全かどうかに常に注意を払っている。金融機関は安全だと思われていないと成立しないビジネスだからである。よって、回収不能または一部回収がいつになるか分からない国債などさっさと手放したい。ここで受け皿として登場するのがハゲタカファンドだ。

ハゲタカファンドは債権者となった後、あらゆる方法で債権回収を試みる。

アルゼンチンのケースではアメリカにあったアルゼンチン中央銀行の預金だったり、大統領専用機だったり、海軍の練習船だったり、、に差し押さえをかけていた。

アルゼンチンも妥協すべき点はあったのだが、前政権はハゲタカファンドと戦い抜くということをずっと掲げていたので、妥協はあり得なかった。アルゼンチンにとっては、この問題を解決しないと国債金融市場で資金調達が出来なかったのである。

ハゲタカファンドのリターン

結局2015年末の政権交代後、マクリ大統領の下、投資銀行経験者が交渉について、ほぼほぼハゲタカファンドの要求をのむ形で決着がついた。(僕がアルゼンチンを訪問したのは2017年4月であり、この国に非常にポジティブな印象を持った。「郷愁とデフォルトの国、アルゼンチンの経済。しかしチャンスあり?」参照)

主導していたファンド、エリオットの実際の投資額は明らかになっていないが各種報道によると、200億円程度(額面617億円の約3割)投資して、2,280億円の回収にこぎつけたとのこと(簡易にUSD/JPY=100で換算)。11.4倍のリターンである。

これだけ聞くと凄まじいリターンだが、年率換算すると約18%のリターンなので、空前絶後の成績という訳ではない。15年という時間のリスクを取った結果である。しかも弁護士費用やロビイングで100億円程度は使っていると見られる。

ハゲタカファンドに対する僕の見方

僕はハゲタカファンド=完全な悪とは思っていない。法律に則って粛々とやっているし、期間のリスク(アルゼンチンのケースでは15年もかかっている!)をとっている。

そして前述した様に、元々の債権者であった金融機関の問題解決にもなっている。加えて、ハゲタカファンドの投資家(金融機関や年金)にきちんとリターンを返している。

ただ、レピュテーションリスクはいかんともし難い。アルゼンチンの例では、様々な国や団体から「ハゲタカファンドはアルゼンチンの再成長を妨げている!」「アルゼンチンの貧しい人達に回るべきお金をハゲタカファンドは取ろうとしている!」(実際はそんな単純ではないのだが)という批判を常に受けていた。

似た様な経験が僕にもある。

証券会社でメザニン(負債の中でもリスクの高い部分)投資をやっていた時、学校法人に対する債権をまとめた証券化商品の一部を保有していた。この債権は銀行から、5割くらいの値段でSPC(特別目的会社)が買い取ったものである。

その学校法人は放漫経営が続いており、理事長は完全にねっころがっていた。向こうも、学校法人に対して金融機関が無茶なことを出来ないと理解しているのである。

実際、手出し出来なかったし、(当時の僕は決定権はなかったが)無理に不動産を差し押さえしようという考えもなかった。担保に取っていた学校の不動産、つまり土地と校舎を売るということは学校を停止させ、生徒を困らせることに他ならないからである。

ハゲタカファンドは割り切らないと出来ないビジネスである。

日本のとあるハゲタカファンドで働いた後に他社に転職した方から「レピュテーションが悪いから同じファンドに戻る気はない。」という話を聞いたことがある。

本稿はハゲタカファンドの是非について書いたものではない。読んで頂いた方の理解深化・更なる議論に繋がるといいなと思っている。

 

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